西側諸国のメディアが、ロシアが撤退したウクライナの首都キーウ周辺の惨状を伝えました。私もSNSで拡散された動画や写真を幾つか見ましたが、通り沿いに多くの民間人の遺体が無造作に放置されており、中には後ろ手に縛られたものがありました。
そのほとんどがうつぶせに倒れていることから察するに、多くの人々が「処刑」同然に後ろから撃たれたのではないかと思います。ロシア軍の勢力下で許し難い殺戮(さつりく)が繰り返されたことは疑いようもなくなりました。思わず目を覆いたくなるような惨状は、ウクライナの人々に対するジェノサイド、大量虐殺の事実を裏付けるものです。
我が身は遠く戦渦の及ばない日本にあっても、この憎むべき蛮行に対しては満腔の怒りに震える心境です。命を奪われた上になお魂の尊厳まで傷つけられるウクライナの人々の無念は察するに余りあり、我が国は国際社会と連携して、ジェノサイドの首謀者であるプーチンに必ず責任を取らせなければなりません。
当面取るべき手立ては、かつてないレベルの経済制裁なのだろうと思います。目下、円安や原油高などを背景に、我が国はいわゆるコストプッシュ型の悪いインフレに見舞われている状況でもあり、ロシアへの更なる経済制裁は今後の電気・ガスの料金の値上げをはじめ私たちの生活を直撃することも想定されます。しかし、個人の自由と民主主義を普遍の価値とする我が日本の国は、ウクライナで起きている人道危機、プーチンによる残虐行為を一日も早く止めるために、経済という非暴力的な手段によって徹底的に戦う覚悟を固めるべきときがきたのだと確信します。
戦渦の拡大はなんとしても食い止めなければならないので、我が国はウクライナの人々のために一滴の血も流すことはできませんが、血税を注いで戦うことはできます。そしていま取るべき措置はロシアからのエネルギーの完全禁輸ではないかと思います。
我が国は樺太の「サハリン2」からLNG(液化天然ガス)の供給を受けており、その量は年間の国内消費のおよそ1割にあたるとされます。国内のガスや電力大手が長期契約でLNGを購入し、都市ガスとしての供給や発電に使用しているのですが、船で数週間を要する中東からのエネルギー輸送と比べてコストが低く抑えられることから、我が国がこれまで積極的に技術面や資金面で協力をして進めてきたプロジェクトでもあります。
このプロジェクトに27.5パーセントを出資して参加していた英石油大手のシェルは、3月に撤退を表明しました。我が国では三井物産が12.5パーセント、三菱商事が10パーセントをそれぞれ出資しており、去就が注目されています。
サハリン2が我が国のエネルギー安全保障上、重要なプロジェクトであることは否定できません。経済界でも、仮に同プロジェクトから我が国が撤退しても「中国が代わりに権益を得るだけ」なので「ロシアへの制裁にはならない」という声が上がっているようです。
しかし、そもそもおかしな議論だと思います。
例えばいまの我が国で、近所にあるガソリンスタンドが仮に暴力団などのいわゆる反社会的勢力の経営であることが判明したとすれば、どんなに便利だろうと安かろうと、そこでガソリンを入れることは批判の対象となります。警察も行政も、他のスタンドを使うように市民に呼びかけるでしょう。
ウクライナにおけるプーチンの残虐行為は、反社会的勢力の範疇を遥かに超えた巨悪の領域にあります。サハリン2からエネルギーを買うことはどんな理由があっても許されない状況になったと言うべきでしょう。相手の正体がわかったのですから。議論すべきなのは「制裁になるかならないか」ではなく、「付き合いをやめるかやめないか」であり、答えは既に出ていると思います。
今すぐに詭弁をやめて別の供給先を探すことに専念すべきです。国民生活への影響抑止や民間の損失補填には血税を使う。これがいま日本の取るべき「戦法」であり、あるべき戦い方なのではないかと思います。