経済情勢に関する投稿の合間に一点だけ、どうしてもウクライナ情勢を巡っての所見を書き残したいのですが…。
ロシアの黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」が、ウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」により沈没させられたとのこと。
ロシア軍のおよそ「旗艦」と呼ばれる船が沈むのは、日露戦争の日本海海戦(1905年)において、東郷平八郎元帥率いる聯合艦隊がバルチック艦隊の旗艦「スワロフ」を轟沈せしめて以来のことだそうです。そうなれば実に117年ぶりの旗艦沈没となります。
かつてNHKでドラマ化された司馬遼太郎の「坂の上の雲」では、日本海海戦に勝利した後の「聯合艦隊解散の辞」を秋山真之が起案したことが紹介されていましたが、その一節に次の言葉があります。
「百發百中ノ一砲能ク百發一中ノ敵砲百門ニ對抗シ得ルヲ覺ラバ、我等軍人ハ主トシテ武力ヲ形而上ニ求メザルベカラズ」
必ず当たる大砲1門は100回に一度しか当たらない大砲100門に対抗できるのだから、我々軍人は武力を形のないものに求めなければならない(見た目や物量に求めてはいけない)のである、と。
希代の名文と言われるこの「解散の辞」ですが、引用したこの一文にこそ真髄があるように思います。圧倒的劣勢の下馬票をひっくり返して我が帝国海軍が勝利した理由を、「兵の練度の差である」と指摘したのです。今日のウクライナ侵攻が兵力や物量で勝るロシア軍の当初の目論見通りに進んでいない理由も、きっと117年前と同じなのではないかという想像が働きます。
ウクライナ東部の攻防は激しさを増し、凄惨を極めているようです。マリウポリでは市街の9割が破壊されたという現地の証言も伝わります。そんな中でも、我が国の先人たちが日本海において、当時世界最強ともうたわれたバルチック艦隊を殲滅せしめたように、世界中の予想を上回る戦いをまさに今、ウクライナの人々が展開して見せているのだと実感します。
日本海海戦をはじめとする日露戦争が「皇国の興廃」をかけた戦いであったように、マリウポリをはじめとする目下の攻防戦には、ウクライナの存亡はもちろん、民主主義や独立国家の主権の尊重という普遍の価値観といった、計り知れないほどに大きなものがかかっているように思います。このようなことを、血を流さない我々が言うのは簡単で、無責任ですらあるかもしれません。今はただ、勇敢なるアゾフ大隊をはじめ彼の地で徹底抗戦する全ての人々に、願わくば神仏の御加護のあらんことを…。