8日の日本列島を驚くべき凶報が駆け巡りました。
我が国の憲政史上、最も長期にわたって首相を務めた安倍晋三氏が、奈良県での選挙応援中に凶弾に倒れました。
およそ日常生活の中で銃を人に向けて撃つこと自体が信じ難い暴挙なのですが、選挙は民主主義の根幹をなすものであり、動機は何であれ、有権者への訴えを背後から遮った凶行は、何重にも強く糾弾されなければなりません。
安倍元首相は自由民主党の最大派閥の長を務めていただけでなく、党内の議論でも、防衛費の大幅な増額を訴え、また政府に大胆な財政出動を促す積極財政論の旗頭となるなど、今後も国の将来を左右するであろう大きな影響力を持ち続けていました。いまだ志なかばでの逝去であったことと拝察します。あまりに突然の訃報を衷心より悲しみ、冥福を心よりお祈りするものです。
犯行に使われた銃については、拡散している写真などからも手製のものである疑いが強く、また現行犯逮捕された犯人は元海上自衛官とのことで、銃器の構造や取り扱いに精通していた疑いがあります。
警察庁のホームページで確認した少し古いデータですが、銃刀法に基づき登録されている銃器は散弾銃が約26万3千丁、ライフルが約4万1千丁(いずれも平成18年)あるそうです。今年1月には埼玉県で、猟銃を持った男が立てこもりの末に医師を射殺する事件がありましたが、時として合法的に所持された銃器でさえ、このように犯罪に用いられることがあります。
猟銃はイノシシなどの有害鳥獣が出るおよそ全てのまちで駆除などに用いられているため、個人でも所定の登録手続きを経て合法的に所持することができます。しかし、いかに今回の犯行では手製の銃が使われたとはいえ、元首相が凶弾に倒れる衝撃的な場面に直面すると、我が国の家庭にあるおよそ30万丁の銃砲がにわかに気がかりにならざるを得ません。
要人の警護に限らず、人だかりができるような場所などへの銃器の持ち込みを当局が可能な限り事前に察知するため、取り外しが不能(または極めて困難)なGPS発信機のようなものを、民間が所持している銃器に組み込むことはできないでしょうか。おもちゃの銃しか触ったことのない私の、思いつきのレベルではありますが。
故意に取り外したり、電池を切らして電波を発信しない状況にしてしまうと、それだけで罪に問われるような厳格な管理がなされてもいいと思います。日頃から正しく銃を管理し、正当に使っている人にしてみても、メンテナンスにかかる手間が増えること以外の不利益はないはずです。
アメリカ、フランス、イギリス、ドイツなどの欧米先進国、それにお隣の韓国では、性犯罪など特定の前歴者が外出する際に、GPS発信機の装着が義務付けられる場合があるそうです。このことの是非には触れませんが、登録されている銃に発信機を取り付けることで、今回の事件現場で使われた手製のものをはじめとする密造、あるいは密輸品を除けば、犯罪利用の抑止につながるとともに、少しは銃に対する警戒・警備がしやすくなるように思います。
既にネット上では、警備体制に問題がなかったかという疑問や批判の声があふれています。大変重要な論点であり、今後の反省のためにも徹底した検証が求められるでしょう。しかし、この事件が社会に投げかけている問題は果たしてそれだけでしょうか。
銃をはじめ殺傷力をもった危険なものの製造方法がネット上で簡単に見つかる現状も、大いに憂うべきだと感じます。
過去5年の統計によると、我が国で年間に摘発される違法な拳銃など数は、おおよそ3〜4百丁で推移していて、年間平均で2.8人が銃によって命を奪われています。